人権エッセイ集

2022年度 あいどるとおく

3月号「すべての人を包摂する社会の構築を」

「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と、政府の中心にいる総理秘書官が、「オフレコ」で述べたという。

この報道に接したとき、憤りとともに、今の時代にという驚きと、未だにかという落胆で気持ちがふさいだ。

今から70年近く前、ある「少年」が、友だちから「(男から女に)なりかけ」と言われて、いじめられた。その「少年」は、カルーセル麻紀さんで、ゲイをカミングアウトしてタレント活動を行ったさきがけのひとりといわれている。カルーセル麻紀さんは、中学生の時に三島由紀夫の『禁色』と出会って、「同性愛」を知ったという。その後は、紙幅の関係で割愛するが、壮絶な人生を歩まれた。まさに、差別と偏見との闘いであった。ゲイをはじめとするLGBTQの存在を、社会に認めさせる荊の道を切り拓いたと言える。

そして、70年が経過した。奈良県の同和教育・人権教育も70年の歴史を刻んできた。部落問題の解決への取組は、社会の変化に呼応する形で、変化してきた。差別・被差別の二項対立から、両側から越えて協力・協働によって解決を図ることが求められるようになってきた。

そうした中、第73回全国人権・同和教育研究大会が奈良県で開催された。大会コンセプトに、「リスペクト、多様性、寛容性をキーワードに、20年後の人権教育を展望する。」とあった。この意味するところはいくつかあるが、その一つが過去の遺産と教訓に学びつつも、社会の変化を鋭敏に捉えて先を見通して新しい実践を創造することである。今回の大会では、公開授業や公開学習会が実施された。そこに多くの視点が示された。活用された教材、対話を重視した一人も取り残されない授業など、今後の展望を示すものであった。また実践報告では、集団づくりを基盤にしつつ、様々な人権課題の学習活動をとおして、子どもたちが身につけた力は何かを報告された。社会では、様々な人権確立の取組が行われている。今大会の社会教育・啓発の報告は、識字学級をはじめ、企業においても、一般法人においても、民間の地域活動においても、取り組む内容は多様であるが、通底するものがあった。それは、一人も社会の中で取り残されることなく、「支え支えられる関係」を越えて、協力・協働の活動をとおして、お互いをリスペクトする関係であった。そこには、差別や偏見は介在しないだろう。これらの実践は、包摂の社会への道筋だ。

社会は、螺旋階段を上るように変化している。カルーセル麻紀さんの闘いにつらなってLGBTQをカミングアウトした人々。今回の秘書官の差別的発言に対する社会の反応。世界は、間違いなく包摂の社会に移行しようとしている。人権教育は、周回遅れにならないように、多様性を認め合い、寛容な態度を養い、自他をリスペクトする教育実践を創造したいものだ。
 

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