人権エッセイ集

2019年度 あいどるとおく

1月号「橋のない川」

2学期に入り、知人から映画『橋のない川』を観たいとの話がありました。20数年前に県内でも撮影され、地元の方々がエキストラで出演された当時のことを思い出していた折、新聞に住井すゑさんと小説で描かれた水平社発祥の地を訪ねたコラムが掲載されていました。

すゑさんは、1902年奈良県磯城郡生まれ。幼い時、農繁期に働いてもらっている部落の人が休憩中に飲んだ湯呑を目の前で壊されるのを見ます。大人たちが平気でやっている行為と、部落の人たちに対する不合理や矛盾が、「人間の平等」を探求し続けた作家の原点となっています。1957年、『橋のない川』を書き始めることを決意し、被差別部落を訪ね歩き、物語の構想を膨らませていきました。物語には、部落解放運動に身を投じ差別と闘う若者たちなどの姿を通して、被差別部落の暮らしと人びとの心情が細やかに描かれています。
 

新聞のコラムには、小説は「時代を生きた人間たちの泥臭い証言を描き、民衆生活の優れたドキュメンタリーであること。様々な弱者が悩み喜ぶ様子など、魅力的な生に溢れた物語である」と書かれ、最後に「今だからこそ、本書を読み返すことにしよう。私たちの心に橋が見つかるはずだ」と述べられていました。
 

厳しい差別を受ける中で、なかまと力を合わせて全国水平社を結成し、差別のない世界をめざす青年たちと支える周りの人たちの姿を、映像を通して学ぶことができたことを思い出しました。知人が『橋のない川』と出会い、すゑさんの生き方、差別を許さない生き方を学ぶことにつながることを願います。

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