人権エッセイ集

2002年度 などちゃんのアイドルトーク 01

10月号「歴史に学ぶ~二度と繰り返してはならない~」

歴史に学ぶ意義に、「今」をどう見るのか、今後をどう予測するのかということがあります。人類の歴史の中で、日本だけでなく他国でも、国内の問題、特に世情不安や政治に対する不信や不満が充満してくると、国民の関心をそらすために、しばしば外交問題を持ち出し、時には「国益・国民の利益」に名を借りた侵略戦争を起こしてきた過去があります。その度に被害を被るのは、一般の民衆でした。そして、二度と繰り返さないと決意しながら、残念ながら繰り返されてきました。

先月、国際社会が注目する中で、日朝首脳会談が行われました。その経過は、ご存知のとおりです。家族を「拉致」された人びとの心痛は、計り知れないものです。国内の世論は、朝鮮民主主義人民共和国に対する批判と、「国交正常化交渉」に対して強行姿勢を求めるものが大勢を占めています。そして、またぞろ国内の朝鮮学校生に対する嫌がらせが起こっています。こうした行為はお門違いも甚だしく、許されることではありません。

ところで、「拉致問題」に関する国民の声は、予想されない事態に直面した家族の悲痛な表情や叫びに呼応して、朝鮮民主主義人民共和国と、これまで「無策」であった政府、特に外務省に非難が集中しました。家族に対する共感と、日本が被害者の立場であることが、そうさせるのかなと思います。こうした思いに共感しますが、もう一方で忘れていることはないでしょうか。それは、かつて日本が朝鮮半島を植民地にしていた時代、朝鮮の人びとを徴用・強制連行し、女性を従軍慰安婦にさせてきた過去に対して、私たちはどう捉えてきたでしょうか。こうした問題に対して強く抗議し、人間としての復権を訴える声に対して、日本社会は共感できたのかが問われます。人権感覚は、ここで試されるのではないでしょうか。
この時期になぜ首脳会談なのかは、歴史が判断することになると思います。しかし、「拉致問題」の解決のあり方や、これからの両国の関係改善、さらには極東アジアの安定が実現できるのかは、これからの世論しだいということになります。今後の交渉が、建設的なものになることを願いますが、逆に「北」の脅威論が台頭し、日本の軍備強化の声が広がることを危惧します。これからが、歴史の分水嶺になることは確かです。どちらの道を選ぶのか、歴史に学びたいと思います。
最後に、横田めぐみさんのお母さんが、「娘を拉致したことは許さないが、朝鮮学校に対する嫌がらせはやめてください」と述べられたことに救われた思いがしました。

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