人権エッセイ集

2004年度 アイドルトーク 02

10月号「大台の空気と人権文化」

大台ケ原を歩いてきました。今年の厳しい暑さも、1600メートルの山上では少し手をゆるめているようで、さわやかな澄んだ空気を満喫しました。

駐車場の端にある「登山口」の看板の横を入るとハイキングの始まりです。ほぼ平坦な道を快適に進みます。向こうから2~3人の人が歩いてきます。すれ違いざま、「こんにちは」という声が聞こえました。「え、何?」と思います。しばらく行くと、また「こんにちは」という挨拶。「ふーん、なるほど」ここでは知らない人どうしでも声を掛け合うのがルールなんだと納得しました。次に出会った人には小さい声で「こんにちは」と挨拶を返すことができました。歩くほどに慣れてきて、1キロ、2キロと歩いたころには、いつしか自分から「こんにちは」と声をかけられるほどになっています。声を掛け合うのはとても気持ちの良いものです。頂上付近に来た時には、もうずっと以前からのハイカーのように、元気のいい挨拶が身についています。

頂上からの眺めを満喫したあとの帰り道、登ってくる人とすれ違うたびに、こちらから声をかけると返してくれるという気持ちのよい関係が続きます。でも、出口の1~2キロメートルぐらい手前からふたたび劇的な変化が起こります。それは、挨拶しても返してくれない人が現れるのです。「え、何?」と思います。「こんにちは」と大きな声で挨拶すると、目をそらして何かぶつぶつ言っている人もいます。どこかでみた光景です。「ふーん、なるほど」数時間前の自分と同じです。そして、ハイキングコースを出て、駐車場に戻るころにはこの『ルール』は完全になくなっています。

さて、最終年を迎えている「人権教育のための国連10年」奈良県行動計画は、人権文化を日常生活に根付かせることをめざして取り組まれてきました。人権文化とはどの人も気持ちよく過ごせる文化だと思います。そういう意味では、先の山中での挨拶もそれにあたるかも知れません。

人権文化は多くの人が「大事だ」と考え行動することで、広がり、定着していきますが、だれもそのことを「大事だ」と思わなければその文化は消えてしまいます。ハイキング中は「知らない人でも挨拶しよう」という『ルール=文化』を多くの人が肯定し支えていますが、駐車場にはその文化がないのです。大台の山中と駐車場では空気の澄み具合以上に、人々の気持ちに違いがあるのです。私たち一人一人が人権尊重の気持ちをもつこと、そして態度、行動にあらわすことが大切です。人権文化はみんなの力で創り出し、くらしに根付かせることができるものだと思います。

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